メキシコのリゾート地、カンクンに到着したわたしは、
ツアーが始まるまでの3日間をセントロ(ダウンタウン)にある
日本人宿「カサ吉田」で過ごした。


ここは日本人の長期旅行者向けのドミトリーで吉田さんという
日本人が経営している。ホテルのような個室ではなく
男子部屋、女子部屋が各1室ずつあり、バス・トイレは共同。
キッチンとリビングの共同スペースがあり、自炊することもできる。


夜9時過ぎ、途中乗り継ぎを含め17時間かけて到着したカンクンは
じっとりと蒸し暑かった。ドミトリーにはもちろんクーラーなどなく、
内心「やっぱりホテルを取ればよかったかな・・・」と少し後悔していた。

でも日本人経営らしく、宿は毎日隅々まで掃除がなされ、
いつも清潔だった。朝食時や夜になるとリビングに誰ともなく集まり、
旅の話や情報交換が始まる。年齢も職業も住む場所もバラバラ。
日本ではまず出会わない、出会ってもきっと仲良くなっていないだろう
人たちとも不思議と話がはずんだ。


そこで出会ったのが、沙織ちゃんにっくん淳くんだった。


女の子らしくてかわいいのに中南米を一人で旅していて、
その意外なたくましさにびっくりの沙織ちゃん。


大学卒業後、すぐにメキシコに渡り、1年間中南米に滞在していた
にっくんはスペイン語がぺらぺら。


ドレッドヘアで関西弁でにこにこ笑う淳くん。

昼間は高級ホテルが立ち並ぶビーチへ遊びに行き、
夜は夜で飲みに出かける。見た目バラバラの4人だけど、
一緒に遊んだ一日はめちゃくちゃ楽しかった。

みんなひとり旅。

だから仲間ができたみたいでうれしかったのかもしれない。

翌日はにっくんがキューバへ向けて出発。
淳くんは朝からチチェンイツァ観光だ。
そして次の日は、わたしがツアーに合流するため宿を発った。

毎日だれかがやって来て、だれかが旅立っていく。

こんな出会いは初めての経験だった。


ツアーに合流した後、グァテマラで偶然日本人旅行者に出会った。
お互いの旅について話し、次の国へ出発する彼を見送るとき、
これが外国人とならハグでもするところだが、日本人同士では
恥ずかしくてそんなことはできないから握手をして別れる。

「良い旅を!」

でもそんな慎ましい日本人らしさが少し懐かしくて、
旅の空の下の偶然の出会いをとてもうれしく思った。

もう一度、旅に出たい。

旅にでるなら今度はふたりで。
自分たちのペースで、自分たちが見たいものを、
感じるままに進んでみたい。

こうして旅をすることが決まったとき、

わたしにはどうしても行きたい「憧れの場所」があった。

そしてそれが今回わたしたちが南米に行く最大の理由なのだ。


(つづく)


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